一夜あければ美女に変身
        帯石観音奇跡物語
 
  山口県の東の海に金魚の形をした島がある。そこは海も山も美しい周防大島という町で、金魚の頭のところに四つの山が尾根続きにそびえている。嵩(だけ)山、嘉納(かのう)山、文珠(もんじゅ)山、源明(げんめい)山。皆、六百メートル級の山で、「春は桜の元禄小袖、秋はみかんの裾模様」と島の音頭で歌われる。
 その一つに、嵩山の中腹に帯石観音(おびいしかんのん)という、昔は真言宗のお寺であったという観音堂があり、ここに黄金(おうごん)の秘仏が祀(まつ)ってある。寺名は、観音堂の横に高さ八メートル、周囲約二十九メートルの巨石があり、中ほどに白い筋が二本通っていて、あたかも帯を結んだような形になっているところから名付けられたものといわれている。 

 いつのころだろうか、たいへん働き者の漁師夫婦が海辺に住んでいた。小さな一隻の舟を持っていて、朝早くから海草や魚介類をとって暮らしをたてていた。
 夫婦には一人娘があったが、ひいき目に見ても、きれいというわけにはいかなかった。女は年頃になると若衆(わかいし)たちのうわさにのぼり、ちやほやされるものだが、彼女にかぎって、そうした浮き名も立たない。しかし、そんな我が身を苦にもせず、丘にある少しばかりの田畑に出かけ、よく精を出した。両親には、それがまたふびんでたまらなかった。

 ある朝、ひぐらしの鳴き声に目を覚ました父親は、これは寝過ごしたとあわてて浜に走った。つないである舟のともづなを解き、少し沖に出て海底を見ると、何か光ったものがある。不思議に思って海中に飛び込むと、急に海水がゆれ動き、日月(じつげつ)のような光が輝いた。そこで驚いて水をけって浮上した。すると頭のもとどりに一寸八分の黄金の千手観音(せんじゅかんのん)様が取り付いている。 怖(こわ)いやら、もったいないやら、仕事もさしおき家にお運びし、観音様を仏壇(ぶつだん)にまつり、夫婦は朝夕に拝んだ。

 ある夜、夢枕(ゆめまくら)に観音様が立たれ、
「お前たちの信心の深さに感心した。何なりと望みをかなえてあげるから言ってみよ。」と、お告げがあった。
「わたしたちは宝物も何もいりません。ただあの娘(こ)が、幸せになってくれればと願うばかりです。」
 ところで一夜明け、起きてみてびっくり仰天。娘が見違えるように変わっている。昨日までに増して、明るい働き者になり、何よりその笑顔の美しさが、たちまち村の評判になった。やがて娘はご縁にめぐまれ、幸せな家庭を作ったという。これも帯石観音様のおかげと、皆は肩を抱き合って喜んだ。それからもいっそう信仰に励み、幸せに暮らしたという。